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ベイルートの爆発事故:復興のためのドローンマッピング

ベイルートの爆発事故によって、多数の人命が失われただけでなく、経済的にも大きな被害が発生しました。

緩やかながら開始された復興事業は、被害状況の評価から始まりました。2020年8月4日、レバノンの首都ベイルートは大爆発に揺れました。ベイルート港に保管されていた2,750トンの硝酸アンモニウムが発火して爆発し、衝撃波によって半径5km(3マイル)以内の建物に大きな被害を与え、街を壊滅させました。220人が命を落とし、5,000人以上が負傷、約30万人の住民が家を失いました。レバノンは既に難民危機、経済的圧力、Covid-19に直面していた時期であり、この爆発事故は、レバノンはもちろん、世界中が震え上がるほどの大惨事となりました。


Pix4Dは、ルクセンブルグを拠点とし、レバノンにルーツを持つAugment社から、このプロジェクトへの協力を依頼されました。Augment社は、データを収集し、他の組織が使用できる形にまとめて有用な情報を提供することで、復興を支援したいと考えていました。Augment社から問い合わせを受けたPix4Dは、クラウドベースのフォトグラメトリーソフトウェアであるPIX4Dcloudを使用して、高密度点群、3Dテクスチャメッシュ、オルソモザイク、DSMのいずれかのデータを作成すれば、簡単に共有して復興に貢献できることを伝えました。Pix4Dは、爆発範囲とその周辺の被害状況を詳細かつ正確に示すオープンアクセスマップの作成を支援しました。

Point cloud of a mosque in Beirut
ベイルートの爆発範囲内にある建物はことごとく被害を受け、美しいモスクも例外ではなかった

Augment社はkickstartaidやLive Love Beirutなどの人道支援団体の協力を受けながら、eBee XドローンとPIX4Dcloudなどのソフトウェアを使用し、対象エリアのドローンマッピングを計画しました。

ドローンの画像から3Dモデルを作成する主なメリットは以下のとおりです:

  • 最新の情報が得られる
  • 作業者のリスクが小さい
  • オープンアクセスのため、迅速な導入/利用が可能
  • バーチャルインスペクターによりフル解像度の画像を使用してプロジェクトを分析できる
  • 2Dおよび3Dの結果から、距離や数量などを算出できる
  • 共有可能な情報が得られ、どこからでもアクセスできる

プロジェクト詳細

場所ベイルート(レバノン)
ユーザーAugment社, Open Map Lebanon
画像撮影枚数4,306枚
ソフトウェアPIX4Dcloud
ハードウェアeBee X with S.O.D.A. 3Dカメラ
アウトプット高密度点群、3Dテクスチャメッシュ、DSM、オルソモザイク
調査対象エリア2.88 km2

被災地のマッピング

爆発の様子を撮影した動画はインターネットに広く拡散されました。爆発の前後を捉えた衛星画像で、被害の巨大さを確認できます。爆心地には直径140メートル(460フィート)のクレーターが残され、大型船も港の反対側まで吹き飛ばされました。9キロメートル(5マイル)離れたベイルート国際空港でも、窓ガラスが粉々になりました。その被害は壊滅的で、計り知れないものがありました。

画像を撮影する方法に関しては、ドローンマッピングが間違いのない選択肢でした。ドローンであれば、人や機材を危険にさらすことなく、瓦礫で覆われた道路の上空を飛行して状況を確認できるからです。空を飛ぶUAV(無人航空機)は瓦礫やレンガの上を這い回る必要がないため、安全性が高いだけでなく、スピードも速くなります。有人航空機での作業は、管制官との調整など複雑な準備が必要になるため、検討されませんでした。有人航空機を使用した場合、緊急物資を運んでくる輸送機の到着を妨げたり遅らせたりする原因となって、不要な混乱を招く恐れがありました。入念にフライトを計画することは、時間と資源の節約にもつながります。

ハードウェアに関しては、Geospatial Minds社とそのパートナーであるFalcon Eye Drones(FEDS)社の協力を得て、S.O.D.A. 3Dカメラを搭載したsenseFly eBee Xを使用しました。緊急性の高い活動ということで、Geospatial Minds社とFEDS社のパイロットは連絡から2日後にeBee Xを携えてドバイから到着しました。この固定翼ドローンは、回転翼ドローンに比べて飛行時間が非常に長いのが特徴です。これは、広いエリアを調査するために必要なことです。フライト時間が長いほうが効率的で、1回のフライトのデータ収集の範囲も大きくなります。また、eBee Xで撮影した画像には、PPK技術によって正確なジオリファレンスを行うことができます。

A map of the Beirut port and inland area divided into sections for mapping
マッピングを容易にするために、被災地をいくつかの区域に分割した

この規模のプロジェクトでGCPを配置する作業に時間をかけると、ドローンを使用することで得られる時間短縮のメリットが失われるうえに、データ収集チーム内での作業調整にも時間がかかります。また、Pix4DはGeospatial Minds社のパイロットと協議して、建物の側面を3Dで復元できるよう、チルトカメラを使用したダブルグリッド型のミッションを提案しました。これは、建物の正面、窓、その他の構造物の損傷を評価するために必要でした。建物の側面がはっきり見えるようにするためには、カメラの角度を少し斜めにする必要があります。最適な角度は10~35°です。さらに詳細な情報が必要な場合は、このデータを地表面のデータと統合することができますが、今回はその必要はありませんでした。

合計6回のフライトを実施し、解像度20MPの画像を4,304枚収集しました。パイロットは毎回、合計4時間のフライトを行い、35GBのデータセットを作成しました。この情報を有効に活用するために、チームはデータをベイルートの区画割りに合わせて13の区域に分割しました。この13個のデータグループを慎重に編集しました。対象領域の真上からの画像を自動的に追加してから、周辺のフライトで取得した画像と統合し、オーバーラップしている部分を追加しました。画像には、フライト後にeMotionを使用してPPKによる後処理補正 を行いました。これにより、絶対精度の高いデータを処理に使用し、マッピング調査結果と統合できました。PIX4Dcloudはクラウドベースであるため、Augment社は巨大なファイルを転送することなく、オンラインでデータを共有できました。

Section of Beirut map with a black background
ベイルート市内の広大なエリアが対象であっため、複数の区域に分割することが、プロジェクトを計画するうえで有益な判断となった

Augment社は、貴重な復興の時間を無駄にしないために、次のような効率的かつ効果的なワークフローを計画しました。:

  • 適切なチームを結成し、適切な専門知識を収集する - Pix4Dは、飛行計画に関する専門知識と適切な処理ソフトウェアを提供しました。
  • 地元当局の許可を得る - 規制に違反すると、ドローンやデータが没収されたり、共有できなくなったりするおそれがあります。
  • 適切なハードウェアを選定する - 固定翼のRTKドローンは航続距離が長く、地表面のGCPの必要性を減らすことができます。
  • データを収集する - ダブルグリッドミッションを低空で行うことで、より鮮明な点群を取得し、建物の側面を捉えることができます。
  • フォトグラメトリーソフトウェアで処理する - 大規模なプロジェクトであったため、小さなチャンクに分割してからPIX4Dcloudで処理しました。
  • 当局とのオープンデータ契約を確保する
  • 結果を地元のNGOに共有し、PIX4Dcloudのコラボレーションツールの活用法を教える

PIX4Dcloudでの作業

PIX4Dcloudがこのプロジェクトに最適な製品であった理由は何でしょうか。まず、PIX4Dcloudはクラウドベースのプラットフォームであるため、ユーザーが強力な処理ハードウェアを用意する必要がありません。Augment社は現地の予測不可能な状況のもとで作業していたため、これは大きな助けとなりました。

さらに、PIX4Dcloudで得られた正確な結果をユーザーがオンラインで簡単に測定し、アノテーションを付けることができます。これは、結果に関心を持っている複数の組織にデータを共有する場合に最適です。アノテーションを使用すると、発見した事実やコメントを他のチームのために強調できるため、オンラインで簡単に情報を共有できます。また、共有の設定も管理できます。Augment社がデータへのアクセスを制限したい場合はそうすることもできますし、現在のようにオープンアクセスにすることもできます。さらに、PIX4Dcloudで使用して生成したさまざまなアウトプット(高密度点群、3Dテクスチャメッシュ、オルソモザイク、DSM)を関連する組織に共有し、復興プロセスのさまざまな目的に使用してもらうことができます。

Annotating the map on Pix4Dcloud
Augment社はWebブラウザー上のPIX4Dcloudを使用して、結果にアノテーションの追加や分析を行いました

このソフトウェアでは詳細な分析が可能です。PIX4Dcloudのバーチャルインスペクター機能を使用すると、ユーザーは2Dまたは3Dビューで特定の点をクリックできます。点をクリックすると、その地点で撮影されたRAW画像が表示されるため、道路の損傷や建物の側面など、複数の角度や視点からその場所の具体的な詳細を調べることができます。

また、PIX4Dcloudのタイムラインビューを使用すると、過去の地図をアップロードして、現在の被害状況と2Dで比較することができます。データをさらに収集して処理し、プロジェクトに追加することで、事故前後から復興までの明確な経過を具体的な日時で確認して、復興状況を追跡できます。

ドローンによる災害対応のためのチームワーク

チームは、レバノン軍の前線緊急事態対策室(FER)から飛行許可を得る必要がありました。通常、ベイルートではドローンの民間利用は禁止されていますが、今回のミッションでは例外的に認められました。FERの許可を得たAugment社は、GeoSpatial Minds社の協力を得ました。同社は固定翼ドローンを提供し、データ収集に向けてパイロットのトレーニングを行いました。Live Love Beirutは関係者全員のトレーニングセッションを調整し、Augment社の他組織とのネットワーク作りを支援しました。Pix4DはPIX4Dcloudを最大限に活用するためのサポートと情報を提供しました。

4時間のフライトで、市内の2.88平方キロメートルの範囲を撮影しました。サポートとトレーニングが円滑に実施されたため、現地スタッフはドローンで収集したデータを3Dマップに変換する方法をすぐに習得できました。3Dモデルと点群ファイルは、商用利用ができないよう、クリエイティブコモンズライセンスで作成されました。

A point cloud of the final map
最終的に作成された点群は非常に緻密で、簡単なナビゲーションで細部まで確認できる

マップを13個の小さなデータセットに分割することで、PIX4Dcloudの共有リンクを介して、都市のさまざまなエリアを、復興に取り組むさまざまなNGOに簡単に割り当てたり共有したりすることができました。これにより、巨大なマップの中から目的のデータを探し出す必要がなくなり、特定のエリアや住所に該当するデータを得られるようになりました。

Augment社は、レバノン政府を代理するレバノン軍とオープンデータ契約を結びました。これは、包括的なデータを収集する必要があることから、ドローンの飛行に特別な許可が求められたためです。

PIX4Dcloudでマップがレンダリングされると、オンラインで全員に共有されました。これにより、さまざまなチームがマップにアクセスし、緊急対応に取り組めるようになりました。

今後の展望と災害マップの活用

このマップの応用範囲は広く、当面のプロジェクトだけでなく、将来の活動にも活用できます。例えば、次のような活動です:

  • 爆発モデルの作成
  • 緊急復興
  • 被害調査(レバノン国内または遠隔地での調査)
  • 建築物被害状況の自動評価
  • 洪水リスクのモニタリング
  • 都市計画
  • インフラへの影響と計画
  • 関係者間の調整
  • 3Dレイヤーによる情報ログ
  • 視点分析と屋根のソーラーポテンシャルの計算

3Dモデルと点群ファイルは、商用利用ができないよう、クリエイティブコモンズライセンスで作成されました。このモデルの用途の広さは、計り知れません。

今回有効活用されたフォトグラメトリーは、Augment社やその他の関係組織の努力もあり、この大惨事後のベイルートの未来を切り開くという非常に大きな課題に貢献する有意義なリソースを生み出しました。Augment社は、今後数か月から数年の間、今回の仕事が少しでもベイルートの復興に役立つことを願っています。


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